土の中から芽が出てくるのが好き






今回は旅のお話をたくさんうかがいたいのですが。今年の夏はどちらへ?

ゆみ









北イタリアの湖へ。マジョーレ湖とオルタ湖のあたりをまわったの。モン・ブランをとおってね。そのあとはフランスのサヴォワ地方に。最初の一週間は毎日車の旅行。あとの一週間はサヴォワの山の中にお家を借りたの。景色がいいお家で、標高1000Mぐらいのところかしら。村が散在していて、遠くに協会の塔が見えて、鐘の音が聞こえてきて印象的でした。そのまたむこうには雄々しい雪山が見えたし、夜は山の背から満月が昇るのを眺めた。



そこで一週間何をしておられましたか?

ゆみ



昼間はどこまでもどこまでも草原の続く高原や、道なき道の山あいをお散歩。牛の赤ちゃんやロバをなでたり。そうそう、草原の中に、雪解けで出来たような小さな池があって、そこが牛や羊の水飲み場になっている。空が映って、まるで青い宝石のよう。



お食事は?

ゆみ



ほとんど毎日、お家でたべてた。大家さんが下の階に住んでいて、農業もすこししているのね。それで毎日、畑でとれたトマトやインゲンやレタスやズッキーニなどを扉の前に置いていってくれるの。トマトなんかそれはおいしくて、こんなトマトたべたことがない、と思ったくらい。



ゆみさんはお料理をなさるのですか?

ゆみ




もちろんよ! お料理は大好き。お料理って即興的アイディアね。それに、早き結果が出るから好き。でも人につくってもらうのもいいな。ただね、あまりにおいしいものばかりたべて、毎年、夏のヴァカンスをすごすと、数キロ体重が増えているのが悩み。あとで減らすけれど、1キロは身についていく感じ。今年はどうかな。



パートナーの方はお料理は?

ゆみ

とても上手よ。わたし、お料理の上手な男の人大好き。

〔男性読者諸兄、よく聞いておいてください〕



一週間もそんな山の中にいて、あきなかったですか?

ゆみ


ぜ〜んぜん。ずっといたかった。帰りたくなかった。わたしはもともと自然の子。子供のときから自然の中で遊んでいた。よちよち歩きのころから、山に行くと帰ろうとしなかったんですって。



何がそんなに?

ゆみ



だって、あの高原の風、ぎゅっと胸があつくなる。すこしすると、下の方から暖かい空気がふあふあとあがってくる。土の熱と草いきれ。顔には冷たい風があたっていい匂い。牛のうんこの匂いだっていい匂い。



牛のうんこが???

ゆみ


いい匂い。くんくんくんと〔ジェスチャーをまじえて〕匂いをかいで、息を深く吸うの。動物ってすてき。



車で御旅行なされたそうですが、運転はお上手?

ゆみ

上手だなんて言えないけど。ちょっとやる程度。高速道路を走りましたよ。キプロス島で。

Q 

免許はいつ取られました?

ゆみ

もうすぐ取ります。



え? え? まだ持っていらっしゃらない?

ゆみ

免許証はないの。



じゃ、無免許運転?

ゆみ






まあ、そういうこと。そんなに大きな声を出さないでください。個人的に教えてもらったの。車が通らないところで。いつだったか運転していたら、観光バスがよけて通っていった。こちらのスピードに敬意を表したのでしょう。



もちろん日本の国の外の話ですね?

ゆみ

日本だったら牢屋に入れられる?





牢屋ときましたね。参ったな。十年ぐらいはぶちこまれますよ。〔すこしおどかしておく必用があるようです〕
ヨーロッパ以外の御旅行は?

ゆみ



昨年バリ島に行きました。びゃくだんの花のいい香り。やさしい風、すばらしかった。皆貧しいと思うんだけど、いい顔してるのね。子供の笑顔が輝いている。あんな島で生活したいな。何にも持たないで。物を持つとしんどいだけですもの。



踊りなどはごらんになられた?

ゆみ





ケチャック・ダンスがよかった。村人たちが大勢空地に集まってきて、ケチャック・ケチャックと呪文のように唱えたり、少女たちが踊ったり。ストーリーがあって、音楽もいい。踊りは抽象的だけれど何か本質的な要素を表現していて、現代音楽や現代ダンスに通じるところがある。たとえばピナ・バウシュのダンス。子供が倒れては起き、倒れては起きするところなど。リアルであると同時にシンボリック。ひやっとする怖さもある。



バリ島のたべものはどうでしたか?

ゆみ



どの土地へ行っても、その土地の人がたべるものがおいしいのね。レストランはどこへ行っても同じ味だけれど、通りがかりの屋台店とか小さなメシ屋とかでたべたもの、たとえばバナナの葉でつつんだ鶏肉のむし焼きとか、おそばにミートボールをのせたものとか、おいしかったな。



お土産は買われました?

ゆみ


どこのお土産やさんにもすばらしい民芸品が沢山並んでいて、あれもこれも買いたくなった。特にプリミティフな木彫りの作品がよかった。



ヒンズーのお寺も行かれました?

ゆみ



田舎の村をまわったときに行きました。芸術的モニュメントといった感じのものが多かった。お寺の庭の木陰で女の人たちがお供物を手でつくっていた。みんなそれはそれは美しいこと。あでやかなサロンを腰にまきつけて。



今後どんな所に旅行をなさりたい?

ゆみ


いつか南アメリカに行きたいのです。まずはペルーへ。母が生まれて育った土地なので。それからアルゼンチン。



どうして?

ゆみ




タンゴよ。タンゴが大好きなの。わたしの音楽そもそもの出発点は、教会の音楽とタンゴと詩吟なの。祖父がペルーにいたせいで、家族中カトリック。私も洗礼を受けたので毎週教会に行っていた。聖歌隊のおじさんがテノールでいい声をしていたし、神父さんがラテン語でお祈りしていて、その声をうっとり聞いていた。オルガン音楽もよかったわ。



タンゴはどうして?

ゆみ




祖父をはじめ家族中タンゴが好きで、レコードがいっぱいあって、いつも聞いたり踊ったりしていたから。詩吟は祖父がペルーから帰ってきてから一つの流派をつくったのです。私がはじめて人前で舞台に立ったのは中之島公会堂。太田道灌の話に出てくる「狐鞍雨を衝いて茅茨を叩く。少年老い易く学成り難し」と堂々とうたったのが最初。



あがりませんでしたか?

ゆみ

あがらなかった。十歳のときの最初のステージ。沢山の人の顔が見えました。



すでに未来を先取りしていたんですねえ。

ゆみ




子供の頃は声が低くて、合唱のときもあると。小学校のとき、今井由美ちゃんという女の子がいてとても可愛い人で、声がきれいで、よく勉強ができた。その子が学芸会のとき独唱をするのね。私は今中由美だったから一字違いなのにずいぶん違うんだな、と彼女にあこがれていた。私は合唱団の端の方で、みにくいアヒルの子みたいに歌っていたんです。



将来何になりたいと思ってました?

ゆみ


昔の作文、小学校の五年生のときのが出てきて、それを見たら「本の朗読が好きなので将来アナウンサーになりたい」って書いてあった。その前は動物園の飼育係でした。



動物がお好きなんですねえ。

ゆみ




そう。動物大好き。植物も大好き。土の中から芽が出てくるのが好き。わたし植物ドロボーだったの。毎週、教会へ行って、今週はこれこれの植物を盗みました、って告白をしていたわ。すてきな木があると根を抜いてもってくるの。近所の家からすみれとひなぎくをだまってつんできたのが見つかって、どなりこまれたことがあるわ。

ラ・プレイヤード会報10号より
1997年10月19日発行




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